物件を検討するとき、「表面利回り」だけで判断していないでしょうか。実際の収益力は、空室率・家賃下落・修繕費・税金・融資条件など、複数の要素が絡み合って決まります。今回、35年間の年次収支から減価償却・概算税額・IRR(内部収益率)まで試算できる、より本格的な無料シミュレーションツールを公開しました。以前公開した「収益物件かんたんシミュレーション」で大まかな数字を確認したあと、購入を具体的に検討する段階で、ぜひこちらもご活用ください。
こんな方におすすめです
- 気になる物件が見つかり、購入を具体的に検討し始めた方
- 複数の物件を比較して、どちらが長期的に有利か判断したい方
- 金融機関に提出する前に、自分でも数字の根拠を持っておきたい方
- 「利回りは高いが本当に大丈夫か」を、税金や出口まで含めて確認したい方
簡易シミュレーションとの違い
以前公開した「収益物件かんたんシミュレーション」は、物件価格と想定家賃、頭金の3つを入力するだけで、利回りと毎月の返済額がわかる入門ツールでした。今回の本格版ライトは、その先にある「本当に長期で成り立つ投資かどうか」を確認するためのツールです。具体的には、以下の点が大きく異なります。
- 試算期間が10年の簡易グラフから、35年間の年次収支に拡張
- 減価償却費を建物構造・築年数から自動計算し、概算の所得税・住民税まで加味
- 税引後キャッシュフローをもとにしたIRR(内部収益率)を算出
- DCR(返済余裕率)・BER(損益分岐点比率)という、金融機関の審査でも使われる指標を表示
- 保有後の売却(出口)まで含めたシミュレーション
一方で、部屋ごとの家賃を入力するレントロール機能や、金融機関への提出を想定したサマリーシートは、Web版では省略しています。より精緻な試算が必要な場合は、記事後半でご紹介する本格版シミュレーションシート(Excel)もあわせてご活用ください。
このツールでわかること
- 物件価格・建物構造・築年数から算出した減価償却費
- 35年間の年次収支(家賃下落・空室率を反映)
- 税引前キャッシュフロー・税引後キャッシュフローの推移
- IRR(内部収益率)
- DCR(返済余裕率)・BER(損益分岐点比率)
- 保有・売却想定年数における売却シミュレーション(売却価格・残債・手取り額)
地方物件でこそ、35年シミュレーションが重要な理由
地方の収益物件は、都市部に比べて人口動態や賃貸需要の変化が家賃・空室率に反映されやすい傾向があります。短期的な利回りだけでなく、10年後・20年後の家賃水準や、売却時にどの程度の買い手がつくか(出口の流動性)まで見据えて判断することが、都市部以上に重要になります。保有・売却想定年数やCAPレートの条件を変えて何度か試算し、悲観的なシナリオでもIRRやDCRがどこまで耐えられるかを確認しておくと、地方物件特有のリスクに備えた判断がしやすくなります。
収益不動産 本格版ライト・収支シミュレーション
不動産投資のガイドブック|35年収支・IRR・減価償却まで試算
物件情報・融資条件・出口条件を入力すると、35年間の年次収支、減価償却・概算税額を織り込んだ税引後キャッシュフロー、IRR(内部収益率)、DCR・BERまで、その場で試算できます。無料・登録不要です。
※減価償却は中古資産の簡便法(法定耐用年数を超えている場合は法定耐用年数×20%、超えていない場合は(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%)で試算します。所得税・住民税は簡易累進課税表による概算で、他の所得との合算や各種控除は考慮していません。
※IRRは「初年度の自己資金支出」と「保有期間中の税引後キャッシュフロー」「売却時手取り」から算出した概算です。追加投資・繰上返済・税制変更などは考慮していません。
年次キャッシュフロー推移(税引後・35年)
累計キャッシュフロー推移
オレンジの点は、保有・売却想定年数の時点で売却した場合の「売却手取り込みの累計収支」です。
| 年目 | 家賃収入 | 実効収入 | 運営費用 | NOI | 返済額 | 税引前CF | 減価償却 | 課税所得 | 概算税額 | 税引後CF | 累計CF | 借入残高 |
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このシミュレーションの数字は、入力した金利・返済期間をもとにした試算です。実際にどのような条件で融資を受けられるかは、年収・勤務先・既存の借入状況・物件の担保評価などによって変わります。
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入力項目の見方(はじめての方向けガイド)
項目数が多いため、はじめて使う方向けに、それぞれの項目で何を入力すればいいか、どこを見れば数字がわかるかをまとめました。物件資料をお手元に用意しながら読み進めていただくと、実際に入力しやすくなります。
①物件情報
物件価格・建物価格・建物構造・築年数の4項目を入力します。「建物価格」は減価償却の計算に使うため、土地と建物の価格を分けて把握しておく必要があります。物件資料に記載がない場合は、固定資産税評価額の内訳(土地・建物)を参考にするか、仲介担当者に確認してみてください。建物構造は、木造・軽量鉄骨・重量鉄骨・RC(鉄筋コンクリート)から選びます。登記簿謄本や重要事項説明書に記載されています。
建物構造ごとの法定耐用年数の目安は、木造22年、軽量鉄骨27年、重量鉄骨34年、RC(鉄筋コンクリート)47年です。この年数と築年数の関係から、本ツールが自動的に「残存耐用年数」を計算し、減価償却費の算出に使用します。
②収益・費用
想定年間家賃収入は、満室時の年間家賃合計を入力します。空室率と家賃下落率は、周辺相場や物件の築年数を踏まえて、やや保守的な数字を入れておくと安心です。管理費率・固定資産税・修繕費は、いずれも運営コストとして毎年発生する項目です。固定資産税は納税通知書に記載の金額を参考にしてください。地方物件では、駐車場の維持費や積雪地域の除雪費用など、都市部にはないコストが修繕費・管理費に上乗せされることもあるため、周辺の管理会社にヒアリングしておくとより実態に近い数字になります。
③融資条件
自己資金・金利・返済期間を入力します。金融機関から融資の事前審査を受けている場合は、実際に提示された条件を入力すると、より実態に近い試算になります。自己資金を厚くするほど借入金額は減り、毎年の返済負担が下がる一方で、自己資金に対するIRRは低くなる傾向がある点も、あわせて確認してみてください。
④出口(売却)条件
保有・売却想定年数は、「何年後に売却する想定で試算するか」を決める項目です。売却時想定利回り(CAP)は、売却時点の家賃収入をもとに逆算して売却価格を算出するための想定利回りです。一般的に、出口の時点では購入時よりもやや高い利回り(=やや低い価格)を想定しておくと、保守的な試算になります。保有年数を短く・長く、それぞれ試算し直してIRRがどう変化するかを比較してみるのもおすすめです。
結果の見方・用語解説
表示される指標には聞き慣れない略語が多いため、一つずつ解説します。
IRR(内部収益率)とは
IRRは「Internal Rate of Return」の略で、投資期間全体を通じた年あたりの実質的な収益率を表す指標です。表面利回りが「1年間の家賃収入だけ」を見ているのに対し、IRRは「初期投資(自己資金)」「保有期間中の税引後キャッシュフロー」「売却時の手取り額」までをすべて含めて計算します。
たとえば、自己資金1,000万円で購入した物件から、毎年150万円前後の税引後キャッシュフローを得ながら20年間保有し、売却時に自己資金を上回る手取りが得られた場合、IRRはその一連の流れを「年あたり何%の運用に相当するか」という一つの数字にまとめたものです。同じ表面利回りの物件でも、融資条件や保有期間、出口での売却価格によってIRRは大きく変わるため、複数の物件やシナリオを比較する際の判断材料として使われます。
DCR(返済余裕率)とは
DCRは「Debt Coverage Ratio」の略で、NOI(後述)を年間のローン返済額で割った数値です。1.0を下回ると、家賃収入だけでは返済をまかなえていない状態を意味します。金融機関の融資審査でも重視される指標で、一般的には1.2〜1.3以上が一つの目安とされています。数値が1.0に近いほど、空室や金利上昇が起きたときに返済が苦しくなりやすい、余裕のない借り方になっている可能性があります。
BER(損益分岐点比率)とは
BERは「Break Even Ratio」の略で、運営費用と年間返済額の合計を、実効収入(空室控除後の家賃収入)で割った数値です。数値が100%に近づくほど、空室や家賃下落が起きたときに収支が赤字化しやすい、余裕のない状態であることを示します。逆に数値が低いほど、多少の空室が発生しても収支が耐えられる、体力のある物件と言えます。
NOIと表面利回り・実質利回りの違い
NOIは「Net Operating Income(純収益)」の略で、実効収入から管理費・固定資産税・修繕費などの運営費用を差し引いた金額です。表面利回りが「年間家賃収入 ÷ 物件価格」で計算するのに対し、実質利回りは「NOI ÷ 物件価格」で計算するため、より実態に近い収益力を表します。表面利回り10%の物件でも、運営費用を差し引いた実質利回りは6〜7%程度まで下がることは珍しくありません。
減価償却と耐用年数の考え方
減価償却は、建物の取得費用を、税法上定められた期間(耐用年数)にわたって少しずつ経費として計上する仕組みです。中古物件の場合、法定耐用年数をすでに超えているかどうかで計算方法が変わります。本ツールでは、国税庁が示す簡便法(法定耐用年数を超えている場合は「法定耐用年数×20%」、超えていない場合は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」)で残存耐用年数を算出し、建物価格をその年数で割った金額を、毎年の減価償却費としています。
減価償却費は実際に現金が出ていく支出ではありませんが、税務上は経費として扱われるため、課税所得を圧縮し、結果的に税引後キャッシュフローを押し上げる効果があります。一方で、耐用年数が短い(=残存耐用年数が短い)物件ほど、早い時期に減価償却費を使い切ってしまい、その後は税負担が急に重くなる「デッドクロス」と呼ばれる状態に注意が必要です。年次詳細テーブルで、減価償却費が0円になる年から税引後キャッシュフローがどう変化するかも、あわせて確認しておくことをおすすめします。
年次詳細テーブルの見方
「35年間の年次詳細データを見る」を開くと、1年ごとの家賃収入・実効収入・運営費用・NOI・返済額・税引前キャッシュフロー・減価償却費・課税所得・概算税額・税引後キャッシュフロー・累計キャッシュフロー・借入残高が一覧で確認できます。売却想定年には、行全体を色付けして表示しています。累計キャッシュフローがマイナスからプラスに転じる年(自己資金を回収し終える年)を確認しておくと、投資の安全性を判断する一つの目安になります。
このシミュレーションで簡略化している点
本ツールは投資判断の参考となる概算値を試算する簡易ツールです。以下の点は、実際の投資判断の際に別途ご確認ください。
- 所得税・住民税は、他の所得(給与所得など)との合算や各種控除を考慮していない、簡易的な概算です
- 購入時の諸費用(仲介手数料・登録免許税・不動産取得税など)は試算に含んでいません
- 大規模修繕は年あたりの平均額として一定額を計上しており、実際に発生するタイミング(周期)までは反映していません
- 融資の借り換えや繰上返済は考慮していません
- 空室率・家賃下落率は、入力した一定の割合で毎年推移すると仮定した簡易的な試算です
よくある質問
Q. IRRは何%あれば良い投資と言えますか?
A. 物件の種類やリスクの取り方によって目安は変わるため、一概には言えません。一般的には、自己資金に対するリターンとして、融資を使わない現金購入よりも高い水準を確保できているかを一つの参考にする考え方があります。
Q. 簡易版とどちらを使えばいいですか?
A. まず「収益物件かんたんシミュレーション」で物件を絞り込み、購入を具体的に検討する段階になったら、本格版ライトで35年間の収支とIRRを確認する、という2段階の使い方をおすすめします。
Q. 表示された税額は確定申告でそのまま使えますか?
A. いいえ、あくまで概算です。実際の税額は、給与所得など他の所得との合算や、各種控除(青色申告特別控除など)によって変わります。確定申告の際は税理士等の専門家にご確認ください。
Q. DCRやBERが目安から外れていたら、その物件はやめるべきですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。自己資金を増やす、金利交渉をする、家賃設定を見直すなど、条件を変えることで改善できる場合もあります。まずは何が数値を押し下げているのかを確認する材料としてご活用ください。
Q. スマートフォンからでも使えますか?
A. はい、ご利用いただけます。ただし年次詳細テーブルは項目数が多いため、横スクロールでのご確認をおすすめします。
Q. 入力した内容は保存されますか?
A. いいえ、保存されません。入力内容はお使いのブラウザ上で計算されるだけで、サーバーには送信・保存されません。ページを再読み込みすると入力内容は消えるため、大事な試算結果はスクリーンショットなどで保存しておくことをおすすめします。
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ほかのシミュレーションツールは、ツール一覧ページからご覧いただけます。
まとめ
表面利回りだけでは見えない、35年という長い時間軸での収支・税金・出口までを含めた本当の収益力を確認できるのが、このツールの一番の価値です。特にIRRは、複数の物件を比較検討する際の強力な判断材料になります。とはいえ、あくまで入力した前提条件にもとづく試算です。空室率や家賃下落、金利の変動など、将来の不確実性まではツールで完全に読み切ることはできません。数字を「最終判断」ではなく「次に何を確認すべきかを考えるための材料」として、物件選びに役立てていただければと思います。
