不動産管理の仕事を始めた頃、どこかで思っていた。「ちゃんと対応すれば、感謝される仕事なんじゃないか」と。
でも、現実は少し違った。
一生懸命対応しても、すぐに「ありがとう」が返ってくることは、実はあまり多くない。むしろ、何も言われないことの方が普通だ。
入居者さんからの連絡は、だいたい困りごとから始まる。水が出ない、音がうるさい、設備が壊れた。こちらが対応して、元に戻っても、それは「当たり前」に戻っただけ。感謝されないのも、無理はない。
それでも最初の頃は、少し期待していた。「助かりました」の一言を。だから、何も言われないと、どこかで寂しさを感じていた。
ある日、クレーム対応が続いたことがあった。どれも真剣に向き合って、できることはやった。それでも、最後まで厳しい言葉を向けられた。
電話を切ったあと、正直、心が沈んだ。「こんなに頑張っているのに」と思ってしまった。
でも、その日の帰り道、ふと気づいた。この仕事は、「感謝されるため」にやる仕事じゃないんだ、と。
不動産管理は、問題が起きない状態をつくる仕事だ。何も起きなければ、誰にも気づかれない。でも、それでいい。
そこから少しずつ、考え方が変わった。「ありがとう」を期待しない。その代わり、「今日やるべきことをやったか」を大事にするようになった。
すると、不思議なことに、心が少し楽になった。相手の言葉に、一喜一憂しなくなった。感情をぶつけられても、「この人は困っているだけ」と考えられるようになった。
たまに、思いがけず「助かりました」と言われることがある。そんなときは、もちろん嬉しい。でも、それを目的にはしなくなった。
この仕事を通して、心が強くなったと思う。
- 評価されなくても動けるようになった
- 感情と仕事を切り分けられるようになった
- 自分で自分を認められるようになった
これは、学校では教えてもらえない成長だ。
不動産管理の仕事は、静かだ。派手な達成感はない。でも、人の暮らしを下から支える、確かな仕事だ。
今日も「ありがとう」は言われなかった。でも、誰かの生活はちゃんと回っている。それで十分だと思えるようになった自分に、少し驚いている。
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