「空室が出ても、家賃は下げたくない」「まだ使えるから、修繕は後回しにしたい」。収益物件を持っていると、こうした判断に迷う場面が何度もあります。
結論から言うと、不動産投資のキャッシュフロー(家賃収入から返済や経費を払ったあとに、手元に残るお金)が悪化しやすいのは、目の前の値下げ額や修繕費だけで判断し、その後に続く空室期間や追加の出費を計算に入れていないときです。判断の前に、選択肢ごとの家賃収入の差を出し、そこから支出を差し引いて比べると、判断のズレを減らせます。
この記事では、家賃と修繕の2つの場面を仮の数字で計算し、判断の比べ方と、確認しておきたいポイントを解説します。
- 空室時に家賃を下げない判断で、家賃収入にどれくらい差が出るか
- 修繕を「今する・期間内はしない・後でする」で比べる方法
- 家賃収入の差から、手残りの差を確かめる手順
- 北関東などの地方物件で、判断の遅れが響きやすい理由
短期的な判断がキャッシュフローを悪化させるのはなぜ?
短期的な判断がキャッシュフローを悪化させるのは、判断の時点で見えている金額と、あとから効いてくる金額が違うからです。家賃の値下げ額や修繕費はすぐに分かりますが、空室が延びた分の減収や、傷みが進んだ分の追加費用は、時間がたってから表に出てきます。
運営中によくある判断を整理すると、次のようになります。
| 判断 | その場で避けられるもの | あとから増えやすいもの |
|---|---|---|
| 空室でも家賃を下げずに募集を続ける | 毎月の値下げ分 | 空室期間が延びた場合の家賃収入の減少 |
| 修繕を後回しにする | 今回の修繕費の支払い(時期が後ろにずれるだけの場合もある) | 傷みが進んだ場合の工事費の増加、物件の印象が悪くなることによる空室の長期化 |
| 管理会社の提案を、理由を聞かずに断る | 提案された費用や値下げ | 空室や不具合への対応の遅れ |
どれも、その時点では節約に見える判断です。ただ、収益物件の運営は何年も続くため、判断の良しあしは「今月いくら出ていくか」だけでなく、「一定の期間で収入と支出がどう変わるか」で比べる必要があります。日々の運営で長期の視点を持つための習慣は、不動産投資は「長期で考える習慣」が理想|成功するオーナーの5つの習慣で解説しています。この記事では、個々の判断を金額で比べる方法に絞って説明します。
空室時に家賃を下げないと、家賃収入にどれくらい差が出る?
家賃を下げない判断が得か損かは、「値下げで減る家賃収入」と「空室が延びて失う家賃収入」を比べると見えてきます。相場より高い家賃で募集を続けて空室期間が延びると、一定の期間で見た家賃収入は、相場どおりに募集した場合より少なくなることがあります。
仮の数字で3つのケースの家賃収入を比べる
周辺の相場が月6万円の部屋に空室が出たとします。空室が出た月を1か月目とし、入居が決まった翌月から家賃が入ると考えて、12か月間の家賃収入を比べます。数字は考え方を示すための仮の設定で、実際の空室期間は物件やエリア、時期によって変わります。
なお、次の表は「家賃収入」の比較です。ローン返済や管理手数料、修繕費などを差し引いた手残りではありません。手残りの比べ方は、後半で説明します。
| ケース | 募集のしかた | 空室期間 | 12か月間の家賃収入 |
|---|---|---|---|
| A | 相場どおり6万円で募集し、1か月で決まる | 1か月 | 66万円(6万円×11か月) |
| B | 7万円で3か月募集して決まらず、6万円に下げてすぐ決まる | 3か月 | 54万円(6万円×9か月) |
| C | 7万円で募集を続け、3か月で決まる | 3か月 | 63万円(7万円×9か月) |
Bは、最終的にAと同じ6万円で決まったのに、空室が2か月長かった分、家賃収入がAより12万円少なくなります。その後も両方が同じ家賃・同じ入居状況で続く限り、この差は縮まりません。
Cは、高い家賃のまま決まったケースです。最初の12か月の家賃収入はAより3万円少なくなります。その後の空室や家賃の変更がないと仮定すると、空室が出てから15か月目の末に、AとCの累計家賃収入は並びます(A:6万円×14か月=84万円、C:7万円×12か月=84万円)。Cの入居者が、家賃を12か月分支払う前に退去した場合は、累計家賃収入はAに届かず、次の空室期間も始まります。
この計算には、入居者が入れ替わるたびにかかる原状回復の費用や、地域によって慣行がある仲介会社への広告料は入れていません。空室期間が延びたり、入れ替わりが増えたりすれば、差はさらに広がる可能性があります。
相場より高い家賃でも決まる場合と、そうでない場合
相場より高い家賃で募集すること自体が、間違いというわけではありません。リフォームの直後で周辺より設備が整っている、駐車場の台数に余裕があるなど、高い家賃に見合う理由があれば、早めに決まる可能性もあります。
一方で、「前の入居者はこの家賃だったから」「下げたくないから」という理由だけで家賃を決めている場合は、空室が長引くリスクが高まります。募集家賃は「その金額で募集している」という事実で、「その金額で決まる」ことを意味しません。家賃が相場と合っているかの確かめ方は、収益物件の家賃は相場と合っている?高すぎる・安すぎる理由と購入前の確認方法で解説しています。
家賃を下げる前に、あわせて確認したいこと
空室が続くときは、原因を家賃だけと決めつけず、周辺の相場・反響・室内の状態・募集条件をあわせて確認します。家賃以外に原因がある場合、値下げしても決まらず、家賃収入だけが減ってしまうためです。
- 周辺の似た物件の募集家賃と、実際に決まった家賃
- 問い合わせや内見の件数(反響が少ない場合は、家賃や募集条件、掲載写真が合っていない可能性)
- 内見後に決まらない理由(室内の状態や設備、日当たり、においなど、現地の要因の可能性)
- 初期費用や入居の条件、駐車場の台数や停めやすさが、周辺の物件より不利になっていないか
問い合わせの件数や内見後の反応は、募集を担当している管理会社や仲介会社に確認できる場合があります。値下げを提案されたときは、こうした情報を見せてもらったうえで判断すると、納得して決めやすくなります。空室の原因の見分け方は地方物件の空室はなぜ起きる?管理会社が見ている原因と対策、地方の家賃相場の受け止め方は「地方不動産の相場」を素直に受け入れる大切さで解説しています。
修繕を先送りすると、どれくらい差が出る?
修繕を先送りしたときの差は、「今修繕する」「比較する期間内は修繕しない」「後で修繕する」の3つを並べると分かります。先送りは、修繕費の支払いの時期を後ろにずらす判断で、いずれ必要な工事であれば、修繕費そのものが減るわけではありません。ただし、安全や漏水に関わる修繕は、収支の比較だけで先送りを決めないことが前提です。
収支を比べる前に、修繕の区分を確かめる
| 区分 | 例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 収支の比較で先送りを決めない | 雨漏りや漏水につながる箇所(屋根、屋上防水、外壁のひび割れ、給排水設備) | 放置すると傷みが広がり、工事の範囲と費用が大きくなる傾向がある。入居者の生活や建物そのものへの影響も大きい |
| 収支の比較で先送りを決めない | 入居者の安全に関わる箇所(階段や手すりの傷み、共用灯の故障など) | 事故やトラブルにつながるおそれがある |
| 収支を比べて時期を決める | 内見で目に入る箇所(共用部の汚れ、鉄部の錆、ゴミ置き場、駐車場の区画線) | 物件の印象を左右し、空室期間に影響することがある |
| 時期を調整しやすい | 入居中の部屋の内装の更新など | 退去のタイミングにまとめて行うと、工事の手間や費用を抑えやすい |
見た目に関わる修繕は、3つの選択肢を並べて比べる
たとえば、共用部の見た目に関わる修繕に10万円かかるとします。比べる期間を12か月とし、家賃6万円の空室が1室あると仮定すると、3つの選択肢は次のように整理できます。
| 選択肢 | 12か月の間に出ていくお金 | 12か月の間に減るかもしれない家賃収入 |
|---|---|---|
| 今修繕する | 修繕費10万円 | 修繕しないことによる減収はない |
| 期間内は修繕しない | 修繕費はかからない | 仮に空室期間が2か月延びた場合、12万円 |
| 期間の後半に修繕する | 修繕費10万円(傷みが進んでいれば、さらに増える可能性) | 修繕するまでの期間に空室期間が延びた場合、その分の減収 |
修繕しないことで、空室期間が必ず2か月延びるわけではありません。先送りしても入居の決まり方が変わらなければ、減収は起きません。ただし、その場合も修繕費は後で支払うことになり、後から修繕すると、それまでの減収に加えて修繕費も必要になります。
判断のときは、「この工事をしないと、入居の決まり方や建物の傷みに何が起きる可能性があるか」を、管理会社の報告や点検の記録から確かめます。点検で見るポイントは収益物件の定期点検で管理会社が見ているポイントは?報告書で確認したいことも解説、修繕費の見込み方や優先順位の全体像は収益物件の修繕費、どう向き合う?先送りしないための考え方で解説しています。
家賃収入の差から、手残りの差を確かめる手順
家賃収入の差は、判断を比べる入口です。実際にキャッシュフローがどう変わるかは、家賃収入から支出を差し引いた手残りで確かめます。手順は、次の3つです。
手順1:選択肢ごとの家賃収入の差を出す
まず、選択肢ごとに、比べる期間の家賃収入を計算します。空室期間は正確には分からないため、「1か月延びたら」「2か月延びたら」と幅をもたせておくと、どこまでなら許容できるかが見えてきます。
手順2:選択肢によって変わる支出を差し引く
手残りは、次の式で考えます。
手残り=家賃収入-(ローン返済+管理手数料+修繕費+入れ替わりの費用+税

