「利回りは高いけれど、買った後に何が起きるのかが分からない」と不安に感じている方は多いのではないでしょうか。収益物件のリスクは、販売資料の数字には表れにくいものです。
結論として、収益物件の見えないリスクは、「修繕」「構造と融資」「競合」「空室」に分けて確認します。判断の基準は、それぞれのリスクについて「いつ、いくらくらいの支出や減収が起きるか」を購入前に想定できるかどうかです。想定できないリスクが重なる物件は、利回りが高くても、初心者の最初の1棟には向きません。
この記事は、1つのモデル物件をエリア・物件スペック・収支・リスクの4つの視点で検証するシリーズの最終回で、【収支編】その利回り、本当に収益が成立するのかを分解するの続きです。モデル物件のリスク評価と、同じリスクを実際の物件で確認する方法、シリーズ全体の結論を解説します。
結論|モデル物件のリスク評価は「×(初心者には厳しい)」
今回のモデル物件は、価格1,300万円、表面利回り約16.6%の一棟アパートです。リスクに関わる条件は次のとおりです。
- 築28年・軽量鉄骨、2DK×4戸
- 修繕履歴は不明
- 外観にやや劣化がある
- 同じ条件の競合物件が多い
- すでに1室が空いている
| リスク | モデル物件の状況 | 評価 |
|---|---|---|
| 修繕 | 修繕履歴が不明で、外観にやや劣化がある | 高い |
| 競合 | 同じ価格帯・間取り・築年数の物件が多い | 中〜高 |
| 空室 | すでに1室が空いている | すでに表面化している |
| 予測のしやすさ | 修繕も空室も、時期と金額を読みにくい | 低い |
表面利回り約16.6%という数字は、こうしたリスクが価格に反映された結果と考えられます。利回りが高いから良い物件なのではなく、「なぜ高いのか」を分解して確認することが、リスク編の目的です。

チェック① 修繕履歴が不明な物件は、支出の時期と金額が読めない
修繕履歴が不明であることは、モデル物件で最も大きなリスクです。建物が傷むこと自体が問題なのではなく、「いつ、どのくらいの費用がかかるか分からない」ことが問題になります。
築28年の建物は、屋根、外壁、給排水の配管、給湯器のいずれも、すでに修繕や交換をしていておかしくない時期です。履歴が分からないということは、まだ手を入れていない箇所が、購入後にまとめて出てくる可能性があるということです。
たとえば、購入後に外壁の塗装、給湯器の交換、配管のトラブルが重なると、数年分の手残りに相当する金額が出ていくことがあります。4戸のアパートは家賃収入の総額が小さいため、1回の修繕が収支に与える影響も大きくなります。
修繕履歴が不明なときに、購入前に確認すること
修繕履歴が不明な物件は、書類と現地の両方から建物の状態を確かめます。
- 売主や管理会社に、過去の工事の見積書・請求書が残っていないかを確認する
- 外壁の目地のひび割れ、外階段や廊下の鉄部の錆、屋根や雨どいの状態を現地で見る
- 給湯器の本体に貼られたラベルで、製造年を確認する
- 空いている部屋で、水回りの状態と排水の流れを確認する
- 工事会社に見積もりを依頼し、物件価格に修繕費を加えた総額で利回りを計算し直す
収益物件の取引では、入居中の部屋の室内は確認できないのが一般的です。室内の状態は、空いている部屋から推測することになります。書類が出てこない場合は、「修繕は行われていない」という前提で費用を見込むほうが安全です。修繕履歴の見方は、収益物件の修繕費、どう向き合う?先送りしないための考え方でも解説しています。
チェック② 軽量鉄骨・築28年は、融資と売却にも影響する
軽量鉄骨という構造そのものが悪いわけではありません。ただし、築年数が進んだ軽量鉄骨の物件は、建物の劣化に加えて、融資と売却のしやすさも確認が必要です。
建物の面では、鉄骨の錆や接合部の劣化を確認します。外から見えない部分が多いため、修繕履歴がないと状態の判断が難しくなります。
融資の面では、法定耐用年数(税務上、減価償却の計算に使う年数)との関係を確認します。住宅用の軽量鉄骨造は、骨格材の厚さによって法定耐用年数が19年・27年・34年に分かれます(参考:国税庁「耐用年数(建物/建物附属設備)」)。築28年のモデル物件は、骨格材の厚さが4mm以下であれば、すでに法定耐用年数を超えています。
金融機関によっては、法定耐用年数を超えた物件への融資期間を短くしたり、融資の対象外としたりすることがあります。自分が買うときだけでなく、将来売るときの買主にも同じ条件がかかります。地方の物件は買い手の数が限られるため、「次に誰が、どんな融資を使って買うのか」を購入前に考えておくことが重要です。
チェック③ 競合が多い物件は、家賃と条件で比べられ続ける
同じ価格帯・間取り・築年数の物件が周辺に多い場合、その物件は入居者から常に比較される立場になります。選ばれる理由が弱い物件は、家賃を下げるか、募集条件を緩めることで対応するしかなくなるためです。
たとえば、近くでリフォーム済みの物件が募集を始めたり、家賃を下げた物件が出たりすると、同じ条件の物件は決まりにくくなります。結果として、空室の期間が延び、家賃を下げることになります。競合の影響は、ゆっくりと、しかし長く続きます。
購入前には、不動産ポータルサイトで同じ条件の物件が何件募集されているかを調べ、地元の管理会社に「このエリアで2DKは実際にいくらで決まっているか」を確認します。競合が多いエリアの見方は、賃貸物件で周辺に似た物件が多すぎるで解説しています。
チェック④ すでに空室がある物件は、空いている理由を確認する
モデル物件は、4戸のうち1室がすでに空いています。確認したいのは、「なぜ空いているのか」です。たまたま退去が出ただけなのか、決まりにくい理由があるのかによって、購入後の見通しは大きく変わります。
4戸のアパートでは、1室の空室で家賃収入の4分の1がなくなります。空いている理由を確認しないまま購入すると、同じ問題をそのまま引き継ぐことになります。
確認には、レントロール(部屋ごとの家賃や契約の開始時期をまとめた一覧)を使います。見るポイントは次の3つです。
- 空いている部屋は、いつから、いくらの家賃で募集しているか
- 募集を始めてから、内見や問い合わせはあったか
- 入居中の部屋の家賃は、現在の相場と比べて高くないか
管理の現場では、長く住んでいる入居者の家賃が、現在の相場より高いままになっていることがあります。その入居者が退去すると、同じ家賃では決まらず、満室想定の利回りは下がります。空室が埋まらない原因の見分け方は、賃貸の「内見は入るのに決まらない」物件も参考にしてください。
チェック⑤ リスクは、重なったときに収支を崩す
ここまでのリスクは、1つずつでも負担になりますが、重なったときに収支を大きく崩します。モデル物件の状況を整理すると、次のとおりです。
- 修繕:時期と金額が読めない
- 競合:同じ条件の物件が多い
- 物件の強み:選ばれる理由が弱い
- 収支:下振れに耐える余裕が小さい
たとえば、まとまった修繕が発生した時期に、空室が長引くケースです。支出が増えると同時に収入が減るため、キャッシュフロー(家賃収入から経費と返済を引いて手元に残るお金)が一気に崩れる可能性があります。
モデル物件では設定していませんが、実際の物件では、災害のリスク(ハザードマップ)、入居者の家賃滞納、土地の境界や接道の状況なども確認が必要です。現地で確認する項目は、収益物件の現地調査で確認したいポイントにまとめています。
初心者が最初の1棟で重視したい3つの条件
モデル物件の一番の問題は、「自分でコントロールしにくいリスクが多い」ことです。初心者が最初に持つ物件では、次の3つを重視することをおすすめします。
- シンプルであること:建物や契約に、特殊な事情が少ない
- 予測しやすいこと:修繕の時期と金額、家賃の水準を想定できる
- コントロールできること:問題が起きたときに、自分の判断と資金で対応できる
今回のモデル物件は、3つの条件の逆に近い状態です。リスクの大きさよりも、「読めない」「打てる手が少ない」ことが、初心者にとっての難しさになります。
総合結論|4つの視点で見たモデル物件の評価
シリーズを通して、1つのモデル物件をエリア・物件スペック・収支・リスクの4つの視点で見てきました。結論として、このモデル物件は、初心者が最初の1棟として選ぶことは推奨できません。
| 視点 | 評価 | 内容 |
|---|---|---|
| エリア | △ | 中の下〜中の上 |
| 物件スペック | △〜× | やや厳しい |
| 収支 | △ | 見た目より弱い |
| リスク | × | 初心者には厳しい |
一つひとつの評価だけを見ると、エリアも物件も収支も「まあまあ」に見えます。問題は、「まあまあ」が重なったときに何が起きるかです。
エリア・物件・収支のどれにも余裕がない状態で、リスクだけが「×」になっています。家賃が下がっても、空室が延びても、修繕が発生しても、吸収できる余白がどこにもありません。この点が、モデル物件を厳しいと判断した理由です。
このシリーズで伝えたかったのは、「この物件を買ってはいけない」という結論そのものではありません。エリア、物件、収支、リスクの順に、落ち着いて確認する習慣です。利回りの数字を見て「良さそう」と感じた物件でも、4つの視点で分解すると、見え方が大きく変わることがあります。
よくある質問
Q. 修繕履歴が不明な物件は、買わないほうがいいですか?
A. 一律に避ける必要はありません。現地の確認と見積もりによって修繕費を想定でき、その費用を加えても収支が成り立つのであれば、検討の対象になります。修繕費を想定できないまま購入を決めることは、避けたほうが安全です。
Q. 利回りが高い物件は、リスクも高いと考えるべきですか?
A. 利回りが高い理由を確認してから判断してください。利回りが高いということは、家賃収入に対して価格が低いということであり、価格が低い理由があります。空室、修繕、競合、融資の付きにくさなど、理由を特定したうえで、自分が対応できる内容かどうかを考えます。
Q. リスクは、どこまで調べれば十分ですか?
A. リスクをなくすことはできません。目安は、それぞれのリスクについて「起きた場合にいくらかかるか」「手元の資金で対応できるか」を、自分の言葉で説明できる状態になることです。説明できない項目が残る場合は、追加で調べるか、見送ることを検討します。
まとめ|気になる物件を、同じ順番で確認する
収益物件の見えないリスクは、修繕・構造と融資・競合・空室に分けて、購入前に「いつ、いくら」を想定できるかどうかで判断します。気になっている物件がある場合は、シリーズと同じ順番で確認してみてください。
- そのエリアに、これからも賃貸需要はあるか
- その物件には、他の物件と比べて選ばれる理由があるか
- 利回りの数字は、どんな前提で計算されているか
- 見えていないリスクを、どこまで想定できているか
借入の条件も、早めに確認しておきたい点です。借りられる金額や期間は、年収や自己資金、物件の評価、金融機関の方針によって変わります。物件探しを本格的に始める前に金融機関へ相談しておくと、無理のない範囲で物件を比較しやすくなります。融資の基本は、不動産投資ローンの基礎知識で整理しています。
あわせて読みたい
この物件を評価するシリーズ
- 収益モデル物件の概要(初心者が「良さそう」と感じる典型例)
- 【エリア編】賃貸需要がある場所かを徹底的に見る
- 【物件スペック編】この物件は”選ばれる理由”を持っているか
- 【収支編】その利回り、本当に収益が成立するのかを分解する

