「販売図面の利回りは魅力的だけれど、この家賃は本当に取れているのだろうか」。収益物件を検討していると、こうした疑問を持つ方は多いと思います。
結論から言うと、家賃が周辺相場とズレている物件は、ズレている理由を確かめるまで、資料の利回りをそのまま信用しないことが大切です。相場より高い家賃は退去後に下がる可能性があり、相場より安い家賃は「上げられる余地」ではなく「下げざるを得なかった事情」の表れかもしれません。
この記事では、家賃と相場のズレが利回りに与える影響、家賃が高すぎる・安すぎるときに考えられる理由、レントロールや周辺の募集情報を使った確認方法を、賃貸管理と収益物件の取引の実務目線で解説します。
結論|家賃のズレは「理由」と「退去後の家賃」で判断する
収益物件の家賃が周辺相場とズレているときは、ズレの有無よりも、ズレの理由と、退去後に決まりそうな家賃で収支が成り立つかを確認します。具体的には、次の3つを順に確かめます。
- ズレの方向と大きさ:部屋ごとの家賃を、周辺の似た物件の家賃と比べる
- ズレの理由:入居時期・契約条件・物件の弱点など、なぜその家賃なのかを確かめる
- 退去後の家賃で計算した利回り:今の家賃ではなく、次の募集で決まりそうな家賃で計算し直す
家賃と相場のズレは、実際の物件では珍しくありません。問題になるのは、理由が説明できないまま、今の家賃を前提に購入を決めてしまうことです。
家賃が相場とズレると、利回りはどう変わるのか
販売図面の表面利回りは、今の家賃(または満室を想定した家賃)を年額にして計算されています。表面利回りとは、年間の家賃収入を物件価格で割った簡易的な収益性の指標です。今の家賃が相場より高ければ、入居者が入れ替わるたびに家賃が下がり、利回りもその分下がっていきます。
説明用の仮の数字で確認してみます。
| 項目 | 今の家賃のまま | 相場の家賃で計算 |
|---|---|---|
| 物件価格 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 戸数 | 6戸 | 6戸 |
| 1戸あたりの家賃(月額) | 5.5万円 | 4.8万円 |
| 年間の家賃収入 | 396万円 | 345.6万円 |
| 表面利回り | 13.2% | 約11.5% |
※金額はすべて説明用の仮の数字です。実際の家賃相場は、地域・築年数・間取り・駐車場の条件などで大きく異なります。
1戸あたり月7,000円の差でも、6戸では年間50万円を超える差になります。しかもこれは、空室・管理費・修繕費・ローン返済を差し引く前の数字です。返済後の手残りで見ると、影響はさらに大きくなります。
なお、家賃は一度にすべて下がるわけではありません。入居者が入れ替わるたびに、少しずつ相場に近づいていきます。購入直後は資料どおりの収入があっても、数年たってから想定を下回る、という流れになりやすい点に注意が必要です。

家賃が相場より高いときに考えられる理由
相場より高い家賃は、「今の入居者だから成り立っている家賃」であることが少なくありません。退去後も同じ家賃で決まるとは限らないため、高い理由を一つずつ確認します。代表的な理由は次のとおりです。
| 理由 | 何が起きているか | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 入居時期が古い | 相場が高かった時期の契約が、そのまま続いている | 入居年月と、直近に入居した部屋の家賃 |
| 法人契約・社宅 | 会社の規定にもとづく家賃で、一般の募集とは決まり方が違う | 契約者が法人か、解約の予定がないか |
| 募集条件で家賃を保っている | フリーレント(一定期間の家賃無料)や仲介会社への広告料を厚くして、家賃を下げずに入居を決めている | 直近の入居時の募集条件 |
| 家賃に含まれるものが違う | 駐車場代・共益費・インターネット料金などが家賃に含まれている | 周辺の物件と条件をそろえて比べたか |
| サブリース・家賃保証 | 会社が借り上げた家賃で、入居者が払っている家賃とは別 | 契約の内容、購入後に引き継ぐか、解約の条件 |
特に見落としやすいのが、募集条件で家賃を保っているケースです。家賃を下げずに、フリーレントや広告料で入居を決める方法は、賃貸の募集の現場でも使われています。レントロール(部屋ごとの契約家賃・入居時期などをまとめた一覧表)の家賃だけを見ても、その分のコストは見えません。家賃の数字と一緒に、どのような条件で入居が決まったのかを確認しておきましょう。

家賃が相場より安いときに考えられる理由
相場より安い家賃は「これから上げられる余地」に見えますが、まずは安くなった理由を確認します。理由によっては、上げられないどころか、今後さらに下がる可能性もあります。
- 長く住んでいる入居者の家賃を据え置いている:比較的前向きに考えやすい理由です。ただし、入居中の方の家賃を上げるには入居者との話し合いが必要で、購入後すぐに上げられるとは限りません。
- 空室が続いて家賃を下げた:エリアの需要が弱い、周辺に似た物件が多いなど、物件だけでは解決しにくい原因が隠れていることがあります。
- 物件に弱点がある:駐車場が足りない、日当たりや騒音、設備の古さなど、家賃を下げないと選ばれにくい理由がある場合です。
- 親族や関係者が入居している:一般の募集とは違う事情で決まった家賃のことがあり、購入後に退去する可能性も考えておきます。
「安い=チャンス」と判断してよいのは、退去後に相場並みの家賃で決まる見込みがあり、その根拠を説明できるときです。根拠がないまま値上げを前提に収支を組むのは避けましょう。
家賃が相場と合っているかを確認する4つの方法
家賃と相場のズレは、「資料で並べる → 周辺と比べる → 地元の会社に聞く → 計算し直す」の順で確認すると整理しやすくなります。
① レントロールで、部屋ごとの家賃と入居時期を並べる
まずレントロールを入手し、部屋ごとの家賃と入居年月を並べます。同じ間取りなのに、入居時期が古い部屋ほど家賃が高く、最近入居した部屋ほど安い場合は、相場が下がってきているサインかもしれません。
空室の部屋に書かれた「想定家賃」も確認が必要です。実際に決まった実績の家賃なのか、売主側が見込みで設定した家賃なのかで、意味が大きく変わります。
② 周辺の似た物件と、条件をそろえて比べる
賃貸のポータルサイトで、同じエリア・同じ間取り・近い築年数の物件を探して比べます。このとき、駐車場代・共益費・インターネット料金が家賃に含まれているかどうかをそろえることが大切です。
また、ポータルサイトに載っているのは募集中の家賃で、実際に決まった家賃(成約家賃)とは違うことがあります。長く掲載されたままの物件は、相場より高めの家賃で募集している可能性があります。比べるときは、募集が続いている物件だけを基準にしないようにしましょう。

③ 地元の管理会社・仲介会社に、直近の成約家賃を聞く
実際に決まった家賃や、決まるまでにかかった期間は、そのエリアで賃貸の募集をしている会社が詳しく把握しています。購入前でも、近くで同じような間取りを扱っている会社に「この条件なら、いくらで、どのくらいの期間で決まりそうか」を聞いてみると、ポータルサイトだけでは分からない感覚がつかめます。
④ 退去後の家賃で、利回りと収支を計算し直す
最後に、今の家賃ではなく、退去後に決まりそうな家賃で利回りと収支を計算し直します。判断に迷うときは、相場より少し低めの家賃で計算しておくと、購入後に想定を下回ったときの影響を小さくできます。数字を入れて試すときは、収益物件 かんたん収支シミュレーションが使えます。
人口・世帯数から家賃相場、空室の状況まで、エリアの市場調査を順序立てて進める方法は、不動産投資の市場調査のやり方で解説しています。家賃の下落や空室・経費まで含めてモデル物件で試算した例は、【収支編】その利回り、本当に収益が成立するのかを分解するをご覧ください。
実務で見ている「家賃が続かない」サイン
賃貸管理や収益物件の取引の実務では、販売資料の家賃をそのまま受け取らず、「この家賃は次の募集でも取れるか」という目で資料を見ます。次のような点が重なる物件は、家賃が下がる前提で検討した方が安全です。
- 同じ間取りの部屋どうしで、家賃の差が大きい
- 入居時期が古い部屋ほど、家賃が高い
- 直近に入居した部屋の家賃や募集条件が、資料に書かれていない
- 空室の家賃が「想定」になっていて、根拠が示されていない
- 売りに出る少し前に、まとめて入居が決まっている
反対に、管理の現場で見ていると、安定して入居が続く物件は、家賃が特別高くも安くもなく、相場に近いことが多い傾向があります。不動産投資では「想定どおりに進むこと」が大切で、その前提になるのが、無理のない家賃です。
サインに当てはまっても、すぐに「買ってはいけない物件」とは限りません。理由を確認し、退去後の家賃で計算しても収支が成り立つなら、検討を続ける価値はあります。大切なのは、家賃が下がる可能性を、購入価格や資金計画にあらかじめ織り込んでおくことです。
購入前に聞いておきたい質問の例
- 直近1〜2年で入居した部屋の家賃と、そのときの募集条件(フリーレント・広告料など)を教えてください
- 空室の部屋の想定家賃は、何を根拠に設定していますか
- 同じ間取りで家賃に差がある部屋は、なぜその金額になっていますか
- 法人契約・サブリース・家賃保証の契約はありますか。購入後も引き継ぎますか
- 駐車場代や共益費は、家賃に含まれていますか
購入前に管理会社へ確認しておきたいことは、収益物件の購入前に管理会社へ聞くべきことでまとめています。
地方・北関東の物件で家賃を比べるときの注意点

地方の物件では、家賃の金額だけでなく、駐車場を含めた条件や、同じ市内でのエリアの差によって相場が変わりやすい点に注意します。
- 駐車場の条件をそろえる:車社会の地方では、必要な台数を確保できるかで決まりやすさが変わります。目安は単身向けで1戸につき1台程度、ファミリー向けで1戸につき2台程度ですが、地域や物件によって異なります。家賃が同じでも、2台目の駐車場が有料か無料かで、入居者から見た条件は変わります。
- 市全体ではなく、物件の近くで比べる:同じ市内でも、勤め先や買い物先への車での行きやすさによって賃貸需要は変わります。市全体の平均家賃ではなく、物件の近くにある条件の近い物件と比べます。
- 比べる物件が少ないときは聞き取りを重視する:地方では、条件の近い募集物件が少なく、相場がつかみにくいことがあります。その場合こそ、地元の管理会社への聞き取りが役立ちます。
- 売却時にも同じ確認をされる:購入後に家賃が下がると、売却するときの利回りも下がり、売却価格に影響します。買い手も家賃と相場のズレを確認するため、出口の時点でも同じ問題が残ります。
駐車場の台数の考え方は、収益物件の駐車場は何台必要?で詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 家賃が相場からどのくらいズレていたら注意が必要ですか?
「何%以上ズレたら危険」という一律の基準はありません。差の大きさよりも、その差の理由を説明できるか、退去後の家賃で計算しても収支が成り立つかで判断します。小さな差でも、戸数が多い物件では年間の収入に大きく響く点には注意が必要です。
Q. 表面利回りが高い物件は、家賃設定を疑った方がいいですか?
疑うというより、「なぜこの利回りなのか」を確認する習慣を持つことが大切です。家賃が相場より高いことは、利回りが高く見える理由としてよくあるものの一つです。周辺相場と比べ、その家賃が退去後も維持できそうかを確認しておくと安心です。
Q. レントロールは、どこで手に入りますか?
物件を紹介している不動産会社に依頼すると、売主側から提供してもらえることが多い資料です。部屋ごとの家賃・入居時期・契約の種類を確認できるため、購入を検討する段階で早めに依頼しておきましょう。提供してもらえない場合は、その理由も確認しておくと判断材料になります。
Q. 相場より安い家賃の物件を買えば、すぐに値上げできますか?
すぐに値上げできるとは限りません。入居中の方の家賃を上げるには入居者との話し合いが必要で、理由を確認せずに値上げを求めると、退去につながる可能性もあります。退去後の新しい募集で少しずつ相場に近づける、という時間のかかる見通しで計算しておくと安心です。
Q. 購入後に空室が出たら、募集家賃はどう決めればいいですか?
周辺の成約家賃と、決まるまでにかかる期間を、管理会社と確認しながら決めます。希望の家賃にこだわりすぎると、空室期間が延びて結果的に収入が減ることもあります。購入後の家賃の見直し方は、「地方不動産の相場」を素直に受け入れる大切さで解説しています。
まとめ
収益物件の利回りは、家賃設定という前提の上に成り立っています。家賃が周辺相場より高ければ退去後に下がる可能性があり、安ければ安くなった理由を確かめる必要があります。
購入前には、レントロールで部屋ごとの家賃と入居時期を並べ、周辺の似た物件と条件をそろえて比べ、地元の管理会社に成約家賃を聞いたうえで、退去後の家賃で利回りを計算し直してください。「この家賃は、なぜこの金額なのか」に答えられるかどうかが、後悔しない物件選びの分かれ目になります。
気になる物件があるなら、まずは退去後に決まりそうな家賃で、かんたん収支シミュレーションに入力してみることから始めてみましょう。
この記事は、賃貸仲介・賃貸管理・収益不動産の売買など、不動産会社での実務経験をもとに執筆しています。

