「利回りだけで選ぶ」は失敗のもと|満室想定・現況・実質利回りの違いと計算例

満室想定・現況・実質利回りの違いを確認するイメージ。アパートを背景に、比較資料と電卓を配置。

販売図面に「利回り15%」と書かれた物件を見て、「この数字をそのまま信じていいのだろうか」と迷っている方もいるのではないでしょうか。

結論として、利回りの数字だけでは、その物件で収益が出るかどうかは判断できません。同じ物件でも「どの家賃で計算したか」「経費を差し引いたか」「今の入居状況か、将来の想定か」で利回りは大きく変わり、販売図面の利回りが、実質ではおよそ半分以下になることもあります。

この記事では、満室想定・現況・実質の3つの利回りの違いと計算式を整理したうえで、仮のアパートを使って数字が下がっていく過程を計算します。あわせて、販売図面の利回りを見たときに確認したい資料と質問も紹介します。

目次

結論|利回りは「どの家賃で」「何を差し引いたか」で大きく変わる

収益物件の利回りは、計算に使う家賃と、差し引く経費の範囲によって意味が変わります。販売図面に大きく書かれている利回りの多くは、経費を差し引く前の表面利回りです。この記事の計算例(6戸のアパート・仮の数字)では、次のようになります。

利回りの種類計算の前提経費計算例
満室想定利回り(販売図面)6戸すべてを月4.5万円で計算。今の入居者の契約家賃(平均月4万円)も4.5万円に置き換えた、仮の広告上の数字差し引かない16.2%
現況利回り今入居している4戸の契約家賃(平均月4万円)差し引かない9.6%
実質利回り(将来の想定)空室も月4万円で募集し、年間で平均5戸が入居していると想定運営費を差し引く(購入時の諸費用も考慮)約7.8%
実質利回り(今の4戸入居が続く場合)今の4戸の契約家賃のまま運営費を差し引く(購入時の諸費用も考慮)約5.6%

約7.8%は、空室2戸のうち平均1戸分が埋まるという将来の想定にもとづく数字です。今の4戸の家賃収入から経費を差し引いた数字ではありません。今の入居状況が続く場合の実質利回りは、約5.6%まで下がります。

購入を判断するときに軸にしたいのは、空室と経費を織り込んだ実質利回りです。ローンを使う場合は、さらに返済後に手元に残るお金(キャッシュフロー)まで確認します。なお、「満室想定利回り」「現況利回り」という呼び方は、会社や資料によって異なります。この記事では、上の表のように呼び分けて説明します。

利回りの種類と計算式

利回りを比べるときは、先に計算式の違いを押さえておくと、販売図面の数字を読み違えにくくなります。

表面利回り(満室想定利回り・現況利回り)

表面利回りとは、年間の家賃収入を物件価格で割った、収益性を大まかに見るための数字です。

表面利回り(%)=年間の家賃収入÷物件価格×100

表面利回りは、計算に使う家賃によってさらに2つに分かれます。すべての部屋が想定家賃で埋まった前提で計算したものが満室想定利回り、現在の契約家賃で計算したものが現況利回りです。どちらも、管理費や税金などの経費は差し引いていません。

満室想定利回りは、今ある空室が想定した家賃で埋まることを前提にした数字です。想定家賃が今の契約家賃と違う場合は、入居中の部屋の家賃まで置き換えて計算されていることもあります。現況利回りも、今の入居者が退去した後の空室期間や、次の入居者の家賃までは反映していません。どちらも、将来の家賃収入を約束する数字ではない点に注意が必要です。

実質利回り

実質利回りとは、家賃収入から毎年の運営費を差し引いて計算する利回りです。計算方法は統一されておらず、差し引く経費の範囲や、分母に購入時の諸費用を加えるかどうかは、資料やツールによって異なります。この記事では、次の式で計算します。

実質利回り(%)=(年間の家賃収入-年間の運営費)÷(物件価格+購入時の諸費用)×100

  • 年間の家賃収入:満室想定ではなく、入居状況を見込んだ金額。今の入居状況で計算するか、空室が埋まる想定で計算するかを明示する
  • 年間の運営費:管理委託料、固定資産税・都市計画税、火災保険料、共用部の電気代や清掃費、修繕費など
  • 購入時の諸費用:仲介手数料、登記の費用、不動産取得税、ローンの手数料など

修繕費には、退去のたびに発生する原状回復や設備の交換のほか、外壁や屋根のように、まとまった費用が数年おきにかかる修繕もあります。この記事の計算例では、大きな修繕への備えも年あたりに割り振って運営費に含めています。

実質利回りとキャッシュフローの違い

実質利回りには、ローンの返済は含みません。ローンを使って購入する場合、実際に手元に残るお金は、「家賃収入-運営費」から、さらに年間の返済額を差し引いた金額です。

手残り(税引前のキャッシュフロー)=年間の家賃収入-年間の運営費-年間のローン返済額

実質利回りが同じでも、借入額・金利・返済期間によって手残りは大きく変わります。また、ここでの手残りは、所得税・住民税などを差し引く前の金額です。

計算例|満室想定16.2%が実質約7.8%・約5.6%になるまで

実際に、仮のアパートで計算してみます。数字はすべて計算の流れを示すための仮の数字で、地域の相場や費用の目安を示すものではありません。

項目内容(仮の数字)
物件木造アパート・6戸
物件価格2,000万円
販売図面の想定家賃月4.5万円×6戸
現在の入居状況4戸入居(契約家賃は平均月4万円)、2戸空室
周辺の募集状況似た条件の部屋は月4万円前後で募集されている

①満室想定利回り:16.2%(仮の広告上の数字)

販売図面の想定家賃で、6戸すべてが埋まった場合の利回りです。

年間家賃収入:4.5万円×6戸×12か月=324万円
満室想定利回り:324万円÷2,000万円≒16.2%

この計算では、空室の2戸だけでなく、今入居している4戸の家賃(平均4万円)まで4.5万円に置き換えています。実際の契約家賃にも、周辺の募集家賃(4万円前後)にも合わない、仮の広告上の数字です。

②現況利回り:9.6%(家賃の前提と空室の両方が影響)

現在入居している4戸の契約家賃だけで計算すると、次のようになります。

年間家賃収入:4万円×4戸×12か月=192万円
現況利回り:192万円÷2,000万円=9.6%

16.2%から9.6%への差は、家賃の前提と空室の2つが重なって生まれています。分けて見ると、次のとおりです。

段階年間家賃収入表面利回り
販売図面(6戸×4.5万円)324万円16.2%
家賃を今の水準に置き換える(6戸×4万円)288万円14.4%
空室2戸を除く(4戸×4万円)192万円9.6%

家賃の前提の違いで1.8ポイント、空室で4.8ポイント下がっています。戸数が少ない物件ほど、1戸の空室が利回りに与える影響は大きくなります。

③実質利回り(将来の想定):約7.8%

ここからは、将来の想定で計算します。空室の2戸も周辺の募集家賃に合わせて月4万円で募集し、年間を通じて平均5戸が入居している(平均1戸分は空室がある)と仮定します。

年間家賃収入:4万円×5戸分×12か月=240万円

どのくらいの空室を見込むかは、物件とエリアによって大きく異なります。過去の入居状況や、空室が埋まるまでにかかった期間を、レントロール(各部屋の家賃や契約状況をまとめた一覧)や管理会社への聞き取りで確認したうえで決めるのが基本です。

次に、毎年の運営費を仮に置きます。

運営費の項目年間の金額(仮の数字)
管理委託料(家賃収入の5%と仮定)12万円
固定資産税・都市計画税15万円
火災保険料5万円
共用部の電気代・清掃費6万円
修繕費(原状回復・設備交換に、外壁や屋根の大きな修繕への備えを年額で加えたもの)36万円
合計74万円

購入時の諸費用は140万円と仮定します。

実質利回り(将来の想定):(240万円-74万円)÷(2,000万円+140万円)≒7.8%

販売図面の16.2%から、およそ半分の約7.8%になりました。なお、分母に諸費用を加えず、物件価格だけで割ると約8.3%です。物件同士を比べるときは、同じ式で計算した数字どうしで比べないと、判断を誤ります。

④実質利回り(今の4戸入居が続く場合):約5.6%

③は、空室が1戸分埋まることを前提にした数字です。空室が埋まらず、今の4戸入居が続く場合も計算しておきます。管理委託料は家賃収入に合わせて9.6万円(192万円の5%)とし、そのほかの運営費は③と同じとします。

年間の運営費:9.6万円+15万円+5万円+6万円+36万円=71.6万円
実質利回り(今の4戸入居が続く場合):(192万円-71.6万円)÷(2,000万円+140万円)≒5.6%

同じ物件でも、空室が埋まる想定(約7.8%)と、今の状態が続く場合(約5.6%)とで、実質利回りに2ポイントほどの差が出ます。購入を検討するときは、想定どおりに埋まった場合だけでなく、今の状態が続いた場合でも計画が成り立つかを確かめておくと安心です。

⑤ローン返済後の手残り:年約51.5万円(将来の想定)

最後に、ローンを使った場合を見てみます。仮に1,800万円を金利2.5%・期間20年・元利均等返済で借りる(自己資金は諸費用を含めて340万円)と、返済額は月約9.5万円、年間で約114.5万円です。

項目将来の想定(平均5戸入居)今の4戸入居が続く場合
年間の家賃収入240万円192万円
年間の運営費74万円71.6万円
年間のローン返済額約114.5万円約114.5万円
手残りの目安(税引前)年約51.5万円年約5.9万円

年約51.5万円は、修繕への備えを年額で見込んだうえでの、税引前の手残りの目安です。今の4戸入居が続く場合は、年約5.9万円まで小さくなります。利回りの高さだけでなく、「想定が外れたときに、どこまで耐えられるか」を確認しておくことが大切です。

なお、この手残りは、通帳に毎年同じ金額が残るという意味ではありません。運営費の修繕費36万円には将来の大きな修繕への備えが含まれており、実際の支出は修繕を行う年にまとめて発生します。そのため、修繕のない年は手元の現金がこの目安より多く残り、修繕を行う年には大きく減ります。備えの分を別の口座に積み立てる場合は、運営費からその分を外して計算し、同じ修繕費を二重に差し引かないようにします。

検討中の物件の数字で同じ計算をしてみたい場合は、物件価格・家賃・借入条件を入れて、表面利回りと返済額をかんたんに試算できるシミュレーションを使ってみてください。シミュレーションの年間キャッシュフローには、管理費や修繕費などの運営費は含まれていないため、この記事の運営費の考え方とあわせて確認してください。

利回りの差が大きくなりやすい物件と、確認の仕方

満室想定と実質の差はどの物件にも生まれますが、差が特に大きくなりやすい物件があります。地方の収益物件では、次の4つを購入前に確認しておきたいところです。

想定家賃が、周辺の募集家賃より高い

満室想定利回りの計算に使った家賃が、周辺で実際に募集されている家賃より高いと、利回りは実態より高く見えます。長く住んでいる入居者の家賃が、今の相場より高いまま残っている場合も、その部屋が退去した後に家賃が下がる可能性があります。

確認方法:レントロールで各部屋の契約時期と家賃を見て、最近決まった部屋の家賃と比べます。あわせて、賃貸のポータルサイトで、同じエリア・築年数・間取りの募集家賃を確認します。

空室が長く続いている

空室の数だけでなく、空室の期間も確認します。長く埋まらない部屋は、家賃・間取り・設備・駐車場など、何らかの理由で入居者に選ばれていない可能性があります。

確認方法:空室になった時期と、その間の募集条件の変化を売主側に確認します。購入後に管理を任せる予定の会社がある場合は、その会社に「この条件で入居が決まりそうか」を聞いてみるのも一つの方法です。空室が生まれる原因と対策は、地方物件の空室の原因と、管理会社が見ている対策で詳しく解説しています。

駐車場が足りない(地方・北関東の物件)

車社会の地方では、駐車場の台数が入居の決まりやすさに影響しやすくなります。北関東(栃木・群馬・茨城)でも、駅からの距離より、駐車場を確保できるかどうかが部屋選びで重視される場面があります。駐車場が足りない物件は、満室想定の家賃で埋めにくく、実質利回りとの差が広がる原因になります。

確認方法:敷地内の駐車場の台数を戸数と比べ、近くの月極駐車場の空き状況も確認します。台数の考え方は、単身者向けで1戸につき1台程度、ファミリー向けで1戸につき2台程度が一つの目安ですが、地域や物件によって異なります。詳しくは収益物件の駐車場は何台必要かをご覧ください。

修繕が先送りされている

外壁・屋根・給排水などの修繕が先送りされている物件は、購入後に大きな出費が続き、実質利回りが計算より下がることがあります。価格が安く、表面利回りが高く見える理由が、修繕の先送りにある場合もあります。

確認方法:修繕履歴(いつ・どこを・いくらで直したか)の資料を求め、現地では外壁のひび割れ、屋根や鉄部のさび、共用部の状態を見ます。修繕費の考え方は収益物件の修繕費との向き合い方、現地で見るポイントは地方の高利回り物件の現地調査の記事で整理しています。

販売図面の利回りを見たら確認したい資料と質問

収益物件の取引では、販売図面の利回りは「入口の数字」として扱い、実際の家賃・経費・修繕の資料で裏付けを取っていきます。利回りを自分で計算し直すために、次の資料と質問を準備しておくと進めやすくなります。

確認したいこと資料・質問の例
利回りの計算に使った家賃「この利回りは満室想定ですか、現在の契約家賃ですか。入居中の部屋の家賃も置き換えていますか」
各部屋の家賃と契約状況レントロール(各部屋の家賃・契約開始日・入居状況)
最近の入居条件「直近で決まった部屋の家賃と、フリーレント(入居後の一定期間の家賃を無料にする条件)などの条件はありましたか」
空室の期間「空室になった時期と、その間の募集条件を教えてください」
税金固定資産税・都市計画税の納税通知書
管理の費用と内容管理委託契約の内容、毎月の管理費・清掃費
修繕の履歴と予定修繕履歴、今後予定している修繕の有無

資料がそろわない項目は、仮の数字で埋めて安心せず、「未確認」として売主側に確認を続けます。融資の審査でも、販売図面の利回りがそのまま使われるとは限らず、金融機関が家賃や経費を見直して評価する場合があります。自分でも同じように数字を見直しておくと、金融機関や売主側との話がかみ合いやすくなります。

利回り以外にも、あわせて確認したいこと

実質利回りまで計算できても、それだけで購入を判断できるわけではありません。利回りは「今の条件、または想定した条件が続く」ことを前提にした数字なので、その条件が続くかどうかを別に確かめる必要があります。

よくある質問

実質利回りは何%あれば良いですか?

一律に「何%以上なら良い」とは言えません。必要な水準は、借入の条件・自己資金・築年数・エリアの需要によって変わるためです。目安の数字で判断するより、ローン返済後の手残りが、空室や修繕が想定より増えても残るかどうかを確認することが大切です。

満室想定利回りと現況利回りは、どちらを見ればいいですか?

両方を確認し、差が大きい場合はその理由を確かめます。差が生まれる主な理由は、空室が多いことと、想定家賃が現在の契約家賃より高いことで、この記事の計算例のように両方が重なることもあります。どちらの場合も、空室が想定家賃で埋まる根拠があるかが判断のポイントになります。

実質利回りの計算に必要な経費が分からないときは?

分からない項目は、売主側や仲介会社に資料を求めます。固定資産税・都市計画税は納税通知書、管理費は管理委託契約、修繕は修繕履歴で確認できます。資料がそろわない段階では、計算結果を確定した数字として扱わないようにします。

表面利回りが低い物件は避けるべきですか?

必ずしもそうとは限りません。表面利回りが控えめでも、空室が少なく経費が読みやすい物件は、実質利回りとの差が小さく、収支が安定しやすい場合があります。表面の数字の高さより、実質との差がなぜ生まれているかを見て判断します。

築年数が浅い物件でも、満室想定と実質の差は出ますか?

出ます。築年数が浅くても、空室や管理費・税金・保険料はかかります。また、新築時に設定された家賃は、入居者が入れ替わるときに見直される可能性があるため、周辺の募集家賃と比べておくと安心です。

まとめ

販売図面の利回りは、どの家賃で計算し、何を差し引いたか、そして今の入居状況か将来の想定かによって大きく変わります。この記事の仮の計算例では、販売図面の満室想定16.2%に対し、今の4戸入居で計算した現況利回りは9.6%でした。経費と諸費用を織り込んだ実質利回りは、空室が平均1戸分埋まる将来の想定で約7.8%、今の4戸入居が続く場合は約5.6%です。

  • 販売図面の利回りが、満室想定か現在の契約家賃か、入居中の部屋の家賃まで置き換えていないかを最初に確認する
  • 想定家賃は、最近決まった部屋の家賃と周辺の募集家賃で裏付けを取る
  • 実質利回りは、入居状況を見込んだ家賃収入から運営費を差し引いて計算し、将来の想定と今の状態が続く場合の両方で確かめる
  • ローンを使う場合は、返済後の手残りが、空室や修繕が増えても残るかを確かめる

検討中の物件がある場合は、まずレントロールと修繕履歴を取り寄せ、この記事の手順で利回りを計算し直してみてください。数字を入れて返済額まで試算したいときはかんたん収支シミュレーション、売却まで含めて長期の収支を確かめたいときは35年収支シミュレーションが使えます。

この記事は、賃貸・不動産管理・収益不動産の売買や査定に携わってきた、不動産業界12年目の実務経験をもとに執筆しています。

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この記事を書いた人

ときどのアバター ときど 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/2級ファイナンシャル・プランニング技能士(個人資産相談業務)/相続支援コンサルタント

不動産業界12年目。現在も北関東の不動産会社に勤務し、賃貸管理・収益物件の売買・査定・現地確認などの実務に携わっています。栃木・群馬・茨城の収益物件について、空室・修繕・融資・売却まで、利回りだけでは分からない点を現場目線で解説しています。

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